第12章 齧歯類
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モルモット
1532年、ピサロがインカ帝国を征服してからほどなく、ヨーロッパの人家では一風変わった齧歯類が見られるようになった
最初はスペイン、次いでベルギー、その後はイングランドやフランス、その他、西ヨーロッパの各地域にも出現し始めた(Pigière et al., 2012; Morales, 1995)
あまりにも変わっていたので、この動物は齧歯類とはみなされなかった
確かにラット(ドブネズミやクマネズミ)やマウス(ハツカネズミ)といったヨーロッパ産の典型的な齧歯類には似ていなかった
似ている生き物になぞらえようとして、この生き物はミニチュアのブタに見立てられた
それぞれの言語で「ブタ」を意味する語を含む名で呼ぶようになった
フランス: コション・ダンド(西のインドのブタ)
ドイツ: メアーシュヴァインチン(海の子ブタ)
英語: ギニー・ピッグ(ギニアのブタ)
スペインでは「コネヒージョ・デ・インデイアス(インドの小さなウサギ)」と呼んだ
系統的にもウサギのほうがずっと近い
分類学の開祖であるカール・フォン・リンネは、モルモットに明らかにブタ的なものを見てとり、ラテン語で「小さなブタ」を意味するporcellusという語を小種名に採用した
リンネはしかし、モルモットが間違いなく齧歯類であることを熟練によって看破し、マウスと同じハツカネズミ属(Mus)に組み込んだ
モルモットは後にテンジクネズミ属(Cavia)に入れられたが、小種名はリンネによるものがそのまま用いられたので学名はCavia porcellusとなった
ギニー・ピッグがなぜ「ギニー」なのかは数多の学説が提出されたが、誰もが納得するようなものはまだ一つもない
「ギニー」は西アフリカのギニア海岸に由来するという説がある。ギニアは大西洋を渡って南米に行き来する船の補給地だったが、ヨーロッパ人はモルモットはそこから来たと誤解したのである。他には、 「ギニー」は「ガイアナ」がなまったものだという説もある。ガイアナは南米からヨーロッパへ向かう船 の出港地だった。
モルモットはギニア産ではない
モルモットはアンデス山脈西部のインカ人の土地からやってきた
新世界にやってきたモルモットたちは、原産地では屋内に生息していた
モルモットたちには専用の部屋が割り当てられ、人間の住居内を自由に動き回るものもいたが、それは料理されるまでの話
ペルーではモルモットはペットではなく、食材
食用目的でモルモットは5000年以上もすでに家畜化されてきた
哺乳類のなかでも成功した齧歯類
1990年代に一部の分類学者がモルモットを齧歯目から追い出そうとした(D'Erchia et al., 1996; ミトコンドリアDNAを根拠として移動すべしとした)が、その試みは大して成功しなかった
モルモットは確固として齧歯類に入れられたまま(Sullivan & Swofford, 1997)
哺乳類の全体の40%、有胎盤類のうちでほぼ半分が齧歯類
マウス、ラット以外にもハタネズミ、レミング、ハムスター、スナネズミ、ホリネズミ、マスクラットもいる
リスやシマリスも、マーモット、プレーリードッグ、ヤマネも
ヤマアラシ、ビーバー、チンチラ、アグーチ、ヌートリア、カピバラも含まれる
もっとなじみが薄いものでは、メクラネズミ、ヤマビーバー、タケネズミ、タテガミネズミ、イワマウス、パカ、ビスカーチャ、フチア、ヨシネズミ、デバネズミ、トゲネズミ、カンガルーネズミ、トゲネズミ、グンディ、デグー、トビウサギなど
齧歯目には30以上の科が含まれる
齧歯類は個体数でも哺乳類の中で一番
目まぐるしく生きて早死し、子沢山
ハツカネズミは飼育下で最長4年以上、野生はたいてい1年経たずに死ぬ
一歳のハツカネズミは曾曾曾祖父母であり、かつ現役で子をなしている可能性がある
ヘビやタカ、イタチやキツネに至るまでが、ハツカネズミの個体数増加を食い止める
モルモットとその近縁種は齧歯類の原則から逸脱する傾向にあり、あるいは少なくともかなり融通を利かせている
比較的ゆっくり生き、死ぬのは比較的年をとってから、そして子どもの数も少なめ
典型的な哺乳類の方によほど近い
つまり、マウス型齧歯類はモルモット型齧歯類よりも遺伝的に大きな変化を経験している(Catzeflis, Aguilar, & Jaeger, 1992; Steppan, Adkins, & Anderson, 2004)
遺伝的な変化率の違いが表現型の進化においてどのように現れてくるかはまったく別の話
マウス型齧歯類がモルモット型齧歯類よりも表現型が多用だという証拠は存在しない
まったく反対である
遺伝子の進化率の相違は、モルモット型齧歯類よりもマウス型齧歯類の方が種数が多いことをある程度は説明してくれる(Adkins et al., 2001)
他の要因として、齧歯類には穴掘り習性と分布が限られる傾向があるため、異所的種分化を起こしやすいことも挙げられる(Steinberg, Patton, & Lacey, 2000)
マウス型齧歯類とモルモット型齧歯類は、齧歯類のスペクトルの両端に当たると間違いなく推測できるだろう
系統樹内でかなり隔たったところに位置している
分岐してからかなり経っているにもかかわらず、マウスとモルモットを含む齧歯類はホリネズミからビーバーに至るまで、いくつかの共通の特徴を持っている
上顎と下顎に二本ずつある驚異的な切歯
この歯は一生継続して伸び続けるので、常にすり減らさなければならない
怠れば下顎の切歯は脳に達してしまうだろう
エナメル化しているのは前面だけ
後面はエナメルよりもかなり柔らかい象牙質
かじると象牙質が摩耗するので、結果、先端分では表側のエナメル質が鑿のように鋭利になる
齧歯類の分類は食肉類や偶蹄類などに比べてかなりややこしい
論争も多数巻き起こっている
齧歯類系統樹の主な分岐については意見が一致しつつある
ここではドロテ・ユションらによる系統樹を取り上げる(Huchon et al., 2002; Blanga-Kanfi et al., 2009; Churakov et al., 2010)
化石と分子(時計)による証拠からは、最初の齧歯類の出現についてかなり矛盾する証拠が提示されている
化石の証拠は恐竜が消滅した頃、あるいはその直後(6500万~5500万年前)が起源だと示唆(Alroy, 1999)
DNAの塩基配列の相違に基づいた初期の研究では、齧歯類が他の哺乳類が分岐した年代はもっと古いと示されている(たとえばHedges et al., 1996; Springer, 1997; Waddell, Okada, & Hasegawa, 1999を参照)
もしそうなら、恐竜が生きていた時代に足元をちょろちょろしていたことになる
最近の研究では、初期の研究よりも長い塩基配列を対象に、かつ多量のデータが用いられている
得られた分岐年代は、化石の証拠から得られる年代にもっと近いものであり納得できる(Huchon et al., 2002; Wu et al., 2012)
齧歯類、特にモルモットの進化におけるいくつかの重要なおおよその年代
約7000万~6500万年前にグレリス類(齧歯類とウサギ類を含むグループ)が出現(Huchon et al., 2002; Asher et al., 2005)
地球上で恐竜の支配が終わりに近づく頃
約6300万年前に齧歯類とウサギ類が分岐し、齧歯類は多様化を始めた
550万年前には齧歯類の主要な3つのクレードが存在
リス系のクレード(最初に分岐)
マウス系のクレード
モルモット系のクレード
旧世界のヤマアラシとデバネズミなども含まれ、まとめてヤマアラシ顎類と呼ばれている(Catzeflis et al., 1995)
ヤマアラシ顎類では内側咬筋が眼窩下孔を通って反対側の骨に付着している。この配置はこの系統独特なものだが、機能的な意義は(もしあるとしても)不明である
ヤマアラシ顎類は他の齧歯類と同じくまずアフリカに出現
4300万年前ごろモルモット型のヤマアラシ顎類は、アフリカから南米大陸へと移住し(おそらく島伝いに渡っていった)、旧世界ヤマアラシやデバネズミ類と進化的に袂を分かつことになった(Antoine et al., 2012; Voloch et al., 2013)
当時、南米大陸はオーストラリア大陸と同様に他の大陸からほとんど隔離された状態であり、独自の哺乳類が存在していた
オーストラリアと同じように南米の哺乳類も多くは有袋類だった
モルモットがやってきたやってきたときには、食肉類(ネコ、イヌ、クマなど)も偶蹄類(ブタ、ウシ、シカ、ラクダ)も奇蹄類(ウマ、サイ、バク)もいなかった
霊長類はモルモット型齧歯類と同じ頃に同じルートをたどってやってきた(Voloch et al., 2013)
新天地には小型哺乳類が入り込めるニッチがたくさん空いていたため、モルモット型齧歯類はアフリカでは無理だった生活様式を進化させた
南米への移住の後、モルモット型齧歯類は表現型の多様性を獲得した
種数がずっと豊富で(遺伝的に)急速に進化するマウス型齧歯類をはるかに超えるものだった
ジョセフォアルティガシア(Josephoartigasia)は過去現在を通じて最大の齧歯類であり、オーロックスほどのサイズだった
フォベロミス(Phoberomys)はバイソンほどの大きさ
水中に進出したもの(カピバラ、パカ、ヌートリア)もいれば、樹上に居を構えたもの(新世界ヤマアラシ)もいた
旧世界ヤマアラシも新世界ヤマアラシもヤマアラシ顎類だが、ヤマアラシ顎類のなかの異なる枝に属しているため、鋭いトゲは収斂進化の一例であるが、これは共通祖先から受け継いだ共有形質をもつために生じた可能性のほうが高い
乾燥した土地から離れなかったものも、それまでの齧歯類をしのぐほどに多様化することができた
深い森で地に落ちた果実を食べるように特殊化した脚の長いパカやアグーチ
草原に適応してでかすぎるノウサギのような姿になったマーラ
寒冷なアンデス高地に適応して稠密な毛皮を進化させたチンチラ
ピサロ征服後、ほどなくヨーロッパ人がチンチラの毛皮をやたらに欲しがるようになった(Spotorno et al., 2004)
テンジクネズミ科にはマーラ属(Dolichotis)や、現生では最大の齧歯類であるカピバラ(Hydrochoerus hydrochoerus)のほか、テンジクネズミ属の多数のモルモット類などが含まれる
テンジクネズミ属は、南アメリカのアマゾン川流域以外の各地の草原環境に分布している
主に草本を食べる草食動物であり、新世界において生態学的にはウシと同等の役割を占めている(Guichón & Cassini, 1998)
モルモットの家畜化
テンジクネズミ属のどの種が家畜モルモットの野生の祖先なのかは長らく謎だったが、近年得られた遺伝的証拠によって、ペルーテンジクネズミ(Cavia tschudii)こそが祖先であることが示されている
ペルーテンジクネズミは現在もアンデス中西部のチリ北部からコロンビアに至る、表高3000~4000メートルの地域に生息している(Spotorno et al., 2006; Dunnam & Salazar-Bravo, 2010)
野生のテンジクネズミは極めて社会的であり、通常、雄1匹と複数の雌と若い子どもたちの群れで生活している
群れは明確なテリトリーをもち、その中で食料をあさる
生い茂った草原に大規模なトンネルを掘り、眠る時にはそこに引っ込み、捕食者から逃げたりする(Asher, de Oliveira, & Sachser, 2004)
家畜化は過去に一度だけ、ペルー南部のどこかで起こったようだ
家畜化過程は早くとも9000~6000年前に始まった可能性がある(Wing, 1986)
この間に、野生のモルモットは中央アンデスの民族にとって主要な肉の供給源となった
後で食べるために飼われたものもいただろう
あるいは、モルモット自身が家畜化過程を始めたのかもしれない
アンヘル・スポトルノは、モルモットの積極的な管理には三段階からなる過程があったのではないかとしている(Spotorno et al., 2006)
第一の最も長い段階はヨーロッパ人による征服まで続き、最初に家畜化が行われた場所から家畜モルモットが広がっていくにつれて、いくつかのローカルな在来種を生み出すことになった
そのような在来種のうちコロンビアのクリオロ、ボリビアのナティバ、チリとペルーのアンディナなどは「クレオール種」と呼ばれることもある
食肉用に人為選択された結果、クレオール種は野生の祖先よりもかなり大きくなっている(Spotorno et al., 2006)
野生モルモットに比べ、クレオール種は頭骨が若干短く、毛色変異が大きい(Spotorno et al., 2007)
第二段階はモルモットがヨーロッパに移出されたときに起こった
ヨーロッパでペットにされ、後に実験動物にもなった
新たな選択体制はまず人への従順性を高めることと、毛皮の外見に集中
19世紀にモルモットのブリーダー協会が設立された頃までには、モルモットは世界中に分布し、毛の色やその他の毛質の種類が豊富になっていた
この多様な表現型から、ブリーダーは幅広く多様な色模様や毛の長さを作り出すように体系的に選択を行い始めた(Suckow, Stevens, & Wilson, 2012)
人為選択による収斂進化の程度がどれほどであろうとも、現代のほとんどのモルモット品種の被毛の性質は、現代のイヌやネコ、ウサギ、さらにはヒツジやヤギにまで似ている
今やモルモットにもダルメシアンや三毛、ブラック・アンド・タンがいるし、メリノやレックスもいれば、完全に毛のないものも2品種いる
シャムのような毛色のヒマラヤン、アビシニアンもいる
ローデシアン・リッジバックというイヌの品種と同じように、背筋に沿って逆毛が生えているものまでいる(Where the Ridgebacks Roam," TexCavy's Guinea Pig Pages)
哺乳類では毛の発生に関わる分子の代謝経路が高度に保存されていることを考えれば、そのような収斂進化は当然予期されるべきものだ(Botchkarey & Sharov, 2004; 脊椎動物の色素形成を扱った一般的な論文についてはHoekstra, 2006を参照; またPantalacci et al., 2008も参照)
これもまた相同によって促進される収斂進化の一例
20世紀初頭、ウィリアム・キャッスルやシューアル・ライトなどの先駆的な遺伝学者たちは、この保守性をうまく利用した
ライトは哺乳類全体における毛色の複雑な遺伝を解明するためにモルモットをモデル生物として用いた(Castle, 1954; Wright, 1917a, Wright, 1917b)
モルモットはそれ以外にも多くの目的で実験に用いられた
モルモットは今でもある種の医学的研究では実験動物として役立っている
モルモットは特に性的発達の研究(Arnold, 2009) と胎児と胎盤の相互作用の研究 (Kumar & Nankervis, 1978; Mess, 2007)で大きな役割を果たしている。その他の医学研究でモルモットの重要性が大きいのは神経管欠損である。このような研究にモルモットがラットやマウスよりも好まれる理由の一つは、人間同様に「同程度の体の大きさの動物に比べて」 長い妊娠期間をもつからである
遺伝学の分野ではラット、マウスなどずっと繁殖スピードの速いものが用いられるようになった
第三段階は、故郷の南米では肉量を増やすように改良されサイズが大きくなったこと(Spotorno et al., 2006)
ペルーのタンボラダやエクアドルのアウクイなど、改良された食肉品種は、クレオール種やヨーロッパ産の品種の二倍を軽く超えるサイズ
モルモットの脳や行動に対する家畜化の影響
家畜化された哺乳類は野生の祖先よりも脳が比較的小さくなるのが通常で、モルモットにもこれが当てはまるようだ(Kruska, 1988)
齧歯類の学習についてのある標準的なテストで、脳が小さめであるにもかかわらず、家畜モルモットが野生モルモットと同じくらいの成績を出した(Lewejohann et al., 2010)
家畜動物における脳のサイズの減少が、認知に関わる領域で起こっているとは限らないので、別に驚くべきことではない
実際、感覚能力や運動技能に関わる領域のサイズが減少している可能性が高い
残念ながら、この比較研究ではCavia aperea(パンパステンジクネズミ)を家畜モルモットの祖先と仮定していたが、実際は違う。Cavia apereaは低地性の種だが、家畜モルモットの真の祖先であるCavia tschudii(ペルーテンジクネズミ)はご想像通り高地性の種である。C. apereaとC. tschudiiは確かに近縁ではあるが、この研究はC. tschudii を用いてやり直すべきだ
家畜化の結果は、従順性だけではなく、社会的寛容性や社会性一般の向上も引き起こす
社会的寛容性の向上は、ネコやフェレットなど、もともと単独制だった生き物では特に目立つものだが、イヌのようにすでに社会的だった生き物でも、家畜化によって野生の祖先よりももっと社会的になる
モルモットも家畜化以前からすでに社会的だったが、家畜化過程を経るにつれて社会性がさらに向上したのかもしれない
家畜モルモットは野生モルモットよりも攻撃性が低く、社会的な相互作用の際に見られるストレス反応も低い(Künzl & Sachser, 1999; Künzl et al., 2003)
さらに、野生モルモットの雄の生体は他の雄に対して不寛容で、自分の息子でさえも成熟したら殺しかねないほどだが、家畜モルモットでは複数の雄をグループにしてもまったく問題ない(Sachser, 1998; Asher, de Oliveira, & Sachser, 2004)
ハツカネズミ(マウス)
ハツカネズミ(Mus musculus)
速く生き若く死に、多くの子を作るというアプローチで進化する典型
個体数を爆発的に増加させられるというハツカネズミの能力は、彼らの成功への鍵の一つであるが、行動面での表現型可塑性が驚くほど高いのもまた別の鍵である(Laviola & Terranova, 1998; Cairns, Gariépy, & Hood, 1990)
この形質の組み合わせにより、ハツカネズミは究極の進化的日和見主義者となっている
もともとはアジアで広範囲に自然分布していたが、それをはるかに超える範囲まで拡散した
人間の居住によって生み出された新たなタイプのニッチを、ハツカネズミは哺乳類として初めて完璧に活用した
新たに開発されたハツカネズミの片利共生的な習性は、彼らの表現型可塑性の現れだった
以前は岩場や洞窟だったが、人間の住居や穀物倉のほうが快適なことを見出した
今日に至るまで、ハツカネズミ大多数を害獣とみなし駆除しようと多大な努力を払ってきたが、完全に失敗している
家畜化した哺乳類の多く、たとえばイヌやネコ、ブタなどは、片利共生的な段階を通過してきている
しかし、片利共生生物のうち、家畜化されるようになったのはごく少数
それでもやはり、片利共生生物はもし機会があれば、ただひたすら人間のすぐ側にいて接近しやすいというだけで容易に家畜化されてしまう
マウス型齧歯類からハツカネズミへ
ハツカネズミとその他の「典型的なマウス」はすべてネズミ科に属している
ネズミ科には、ラット(ドブネズミなど)やスナネズミなど多くの種が含まれる
ネズミ科は哺乳類全体の中でも最大の科であり、1100以上の種を擁している(Steppan, Adkins, & Anderson, 2004)
ネズミ科は中新世のどこか(2500万~2000万年前)で他のマウス型齧歯類から分岐した
マウスとラットが分岐したのは1500万~1000万年前
ハツカネズミ属(Mus)が出現したのは約600万年前(Thaler, 1986)
ハツカネズミ属が進化したのはインド亜大陸
インド亜大陸はハツカネズミを含め、同属の多くのメンバーの分布の中心(Boursot et al., 1993)
新石器時代が始まる頃まで、1万2000~1万年前までに、ハツカネズミには4つの亜種が存在し、それぞれ異なる地域で人間に片利共生するようになった(Boursot et al., 1993)
パキスタン西部のステップのイエハツカネズミ(Mus musculus domesticus)
肥沃な三日月地帯で農業が発達するに従って拡大していった
インド北部のヨウシュハツカネズミ(Mus musculus musculus)
中央アジアと、2つ目の文明のゆりかごである中国に侵入
インド北東部(現バングラデシュ)のクリイロハツカネズミ(Mus musculus castaneus)
東南アジアに広がった
インド中央部と南部のバクトリアハツカネズミ(Mus musculus bactrianus)
大部分が亜大陸内にとどまった
4000年前には、イエハツカネズミとヨウシュハツカネズミはいずれもヨーロッパに到達していたが、そこに至るルートは異なっていた(Sokal, Oden, & Wilson, 1991)
イエハツカネズミは近東からの農業の拡大により、ヨウシュハツカネズミはウマの引く荷馬車によってアジア中央部と西部のステップを横切ってやってきた
東ドイツの国境が、主に西ヨーロッパに生息するイエハツカネズミと中央ヨーロッパ産のヨウシュハツカネズミのおおよその境界線になっている
過去500年の間に、ヨウシュハツカネズミではなくイエハツカネズミが、南北アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、サハラ砂漠以南のアフリカ、インド洋・太平洋地域の島々に達した
西ヨーロッパから出かけた船
人間とハツカネズミの間の交流は、主にネズミ側に利益をもたらした
中国は速くも3000年前には斑模様のハツカネズミを皇族の女性が飼育していたという文献がある(N. Royer, "The History of Fancy Mice," American Fancy Rat & Mouse Association, last modified March 5, 2014)
約2100年前(漢)、中国ではハツカネズミ育種家が黄色いハツカネズミのみならず、かの有名な「コマネズミ」をも作り出していた
内耳に異常が起こった結果、くるくるとコマのように回るのでこの名で呼ばれている(Nolan et al., 1995)
ペットとして品種改良されたハツカネズミは、「ファンシーマウス」として知られている
18世紀までは日本がファンシーマウスの開発をリードしていた
ヨーロッパに連れて行かれた個体もいて、特にヴィクトリア朝の英国でもてはやされた
日本では東アジアのヨウシュハツカネズミをもとに、東南アジアのクリイロハツカネズミもある程度交雑に用いられ、様々なファンシーマウスが作出された
このヨウシュハツカネズミとクリイロハツカネズミの雑種が英国に輸入された
英国在来のイエハツカネズミは、英国でのファンシーマウス系統にはほとんど貢献していない
だが、ファンシーマウスが科学的な目的に利用され始めるとイエハツカネズミも交雑に加えられるようになった
実際、実験用ハツカネズミのゲノムの大部分はイエハツカネズミで、少数のヨウシュハツカネズミのものと、さらにほんのひとさじのクリイロハツカネズミのものが加わっている(Keane et al., 2011; Reuveni, 2011)
混合比率は実験用ハツカネズミの系統により多少異なっている
実験用ハツカネズミは、異なるゲノムの混じった遺伝的に多様な状態からスタートし、高度の近親交配が行われて多数の系統が作られ、遺伝的な多様性が分離されることになった
つまり、実験用ハツカネズミ全体としては遺伝的に多様だが、それぞれの系統内は均一化し、多様性が失われている
そうやってできた高度な近交系は、生物医学的研究で、特に疾病に関する遺伝的条件を他の条件と切り離せるという点において、きわめて価値が高いことがわかっている
各系統内での遺伝的変異はほとんどなく、同系統ならばどの個体も遺伝的にほぼ同一の状態だが、系統同士を比べればかなりの遺伝的変異があり、表現型変異も多く見られる
例えば、従順性は系統間で明らかに異なっている(Wahlsten, Metten, & Crabbe, 2003; Goto et al., 2013)
それでもなお、最も従順性の低い系統でさえ、野生のイエハツカネズミに比べれば従順性が高い
野生ハツカネズミと実験用ハツカネズミの違い
身体的に最も目立つのは体のサイズ
実験用ハツカネズミの系統で体の小さなものでさえ、野生ハツカネズミの二倍の重さがある
運動能力の低下は家畜化された哺乳類の特徴だが、低下がここまで著しいのはハツカネズミだけ
回し車をおくと、野生の方が実験用よりも回す時間もかなり長く、また速度も早い
野生のハツカネズミの運動能力の高さは、心室の大きさに現れている(Garland et al., 2011)
実験用ハツカネズミが紐にぶらさがっていられるのは30~40秒だが、野生ハツカネズミは紐をよじ登って頂上まで言ってしまうので計測不能(Austad, 2002)
野生ハツカネズミは跳躍力も素晴らしく、スティーヴン・オースタッドはポップコーンがはじける様にたとえている(Austad, 2002)
実験用ハツカネズミではこの能力は除去されてしまっている
実験用ハツカネズミに見られる他の家畜動物的な表現型としては、脳のサイズの縮小がある(Kruska, 1988)
また、眼のサイズも野生の祖先に比べてかなり小さくなっている
これは、家畜動物における脳の縮小は感覚に関する領域で生じたものであり、認知に関する領域が縮小しているわけではない、という見解に一致している
生殖方面でも実験用ハツカネズミは典型的な家畜哺乳類的性質を示し、野生の祖先に比べて性成熟が早く、一腹子数も増加している(Miller et al., 2002)
また老化も早い(Miller et al., 2002; Harper et al., 2006)
つまり、実験用ハツカネズミは早く生きて若く死に、多くの子を残すという戦略をとっている
遺伝的変異なしの表現型変異
実験用の近交系ハツカネズミで最も近交度(近親交配の度合い)の高いものでは、同系統内の個体はすべて事実上のクローンであり、そのような系統は「同質遺伝子系統(アイソジェニック系統)」と呼ばれる
遺伝的に同質ならば表現型も均一になるはずだ
環境変異を除去するために高度に標準化された様式で飼育されるのだからなおさら
遺伝的にも環境条件でも均一な実験用ハツカネズミにも、かなりの表現型変異が見られる(Gärtner, 1990; Gärtner, 2012)
たとえば体重にはかなりのばらつきが現れる
遺伝子や環境が表現型に及ぼす影響を特定しようとして実験を行う場合、この変異はものすごく不都合である
遺伝子と環境に加えて第三の要因があると考えなければ、このような変異の説明がつかない
以前は発生過程におけるノイズ(ゆらぎ)と呼ばれ、発生には偶然的にランダムに変化する性質があるから、などと説明されてきた
しかし近年になって、このノイズの裏にあるメカニズムが解明されてきた
重要な手がかりの一つは、この第三要因が大きく作用するのは出生前だということ
発生が関わる要因のうち、先天的であり一生継続するものでありながら遺伝的でないのは、一体どんなものだろうか?(→付録7. エピジェネティクスという次元)
ラット(ドブネズミやクマネズミ)
生理的な嫌悪感でいうならラットはマウス以上
体が大きい
疫病や黒死病(ペスト)
ここで主に扱うドブネズミ(Rattus norvegicus, ブラウンラット、ノルウェーラット, NYでは「下水ラット」)については、疫病、特に黒死病と関連付けるのは不当
黒死病を引き起こすバクテリアはラットに寄生するノミが運んだが、そのノミはクマネズミ(Rattus rattus ブラックラット)に寄生していた
ドブネズミはこの件に関しては人間に貢献した
体の大きめなドブネズミがクマネズミを追い出した結果、クマネズミの分布域がかなり縮小した
ドブネズミやクマネズミは、ハツカネズミよりも遅れて人間の居住地にやってきた
ドブネズミはハツカネズミとは異なり、本来の生息環境であるモンゴルや中国北部の平原で、人間とは片利共生しない状態で繁栄を続けている(Krinke, 2000)
クマネズミは森林地帯から南下し、中国南部や東南アジアにやってきた(Aplin, Chesser, & ten Have, 2003)
ドブネズミは穴居性だが、クマネズミは樹上性
もし地下室でねずみを見かけたらならおそらくドブネズミで、屋根裏ならクマネズミ
地下室でも屋根裏でも、かなり小さいネズミだったらそれはハツカネズミ
ドブネズミやクマネズミは「野生のまま」にとどまっているものもいるが、先輩であるハツカネズミと同様に、人間のそばで快適に暮らすようになるものもいた
片利共生的な生活を選んだものは、まもなく人間の移動や貿易のルートに沿って、最初は陸路、やがては海路により広がっていった
最初にヨーロッパに到達したのはクマネズミで、おそらく早くとも2400年前のこと(McCormick, 2003)
ローマ時代(西暦200~300年頃)にはイングランドに達した
ドブネズミがヨーロッパに侵入したのはそれから1世紀後、中世のこと
その後、徐々に先駆者を追い出し始め、ヨーロッパとのちには北米の大部分に広がっていった
害獣からペットへ、そしてさらに
ドブネズミの学名の種小名novegicusは誤解に基づいている
ノルウェー由来だとし、当時はそれが通念として受け入れられていた
この学名はJohn BerkenhoutがSynopsis of the Natural History of Great Britain & Ireland(1795)で授与したものである
英語圏ではドブネズミのことを未だにノルウェーラットと呼ぶのが一般的
ドブネズミもクマネズミも「速く生き若く死に、子を多く残す」
害獣としては手強い相手
ヨーロッパ人の多くはネコやイヌに頼ってドブネズミやクマネズミの増殖を抑えようとしてきたが、あまり成功はしなかった
上流階級は捕鼠職人を雇うことも多かった
ヴィクトリア女王お抱えの捕鼠職人にジャック・ブラックという男がいた
ジミー・ショーというドブネズミいじめの大手興行主に売る事が多かった
才覚に富んだブラックは、普通と違う毛色のドブネズミを馴らしてペットとして売ろうとした(Langton, 2007)
しばらくすると、リボンを付けたファンシーラットはステータスシンボルになった
1970年代にはついに英国ファンシーラット協会が設立され、ドブネズミの交配に力が入れられるようになった
この頃には、ドブネズミは実験用動物として普及しており、特に(行動)心理学分野で学習の実験によく用いられるようになっていった
ジャック・ブラックの時代から200年も経たないうちに、ドブネズミの子孫たちはかなり多様化した
家畜ドブネズミでは毛色にかなりの変異が見られる
特筆すべきは色素がなくなって白色の現れる頻度や面積が増加したこと
これは家畜化ではよく見られる現象
白色は特に実験用ドブネズミでよく見られる
家畜ハツカネズミと同様、家畜ドブネズミでは心臓などの内臓が小さめ(Lockard, 1968)
家畜ハツカネズミや家畜モルモット同様に、家畜ドブネズミでも野生の祖先よりも早い時期に性成熟に達する(Clark & Price, 1981)
家畜ドブネズミは野生ドブネズミとは異なり、繁殖が季節的なものではなくなっていて、一年中繁殖可能
行動的な相違点はさらに著しい
家畜ドブネズミは野生の片利共生的ドブネズミよりも明らかに従順性が高く、また互いに近寄ることに対する耐性がはるかに高い(R. J. Blanchard, Flannelly, & Blanchard, 1986)
家畜ドブネズミはまた、社会的な関係においても、社会性とは関係ない新奇な環境に出会ったときでも、怖がったりびくびくしたりする度合いが低い(D.C. Blanchard et al., 1981)
野生のドブネズミよりも探索心が旺盛で、標準化された学習課題の成績がよい(Boice, 1981)
ドブネズミの実験的家畜化
ノヴォシビルスクの研究所におけるベリャーエフの研究成果としては、キツネ実験に劣らず重要なのがドブネズミの実験的家畜化(Belyaev & Borodin, 1982)
ドブネズミは世代時間が短く、そのため短期間に進化する可能性を持っているという点では、キツネよりも決定的に有利
ドブネズミの実験は数十年遅れてスタートしたにもかかわらず、人為選択を始めてからの世代数はキツネをはるかに超えている
ドブネズミの場合も従順性を対象として選択が行われた
必然的なことだが、ドブネズミの従順性評価にはキツネとは異なる尺度が用いられる。
キツネの従順性は、すでに述べたように、単に人間が近接しても闘争・逃走反応を起こさず耐えられるかどうかで評価される
ドブネズミの場合は防衛的攻撃という特定の種類の攻撃に注目し、ドブネズミの入ったケ ージに手袋をした手を差し入れ(ドブネズミに逃げ場はない)、その際の反応で従順性を評価する(Naumenko et al., 1989; Plyusnina & Oskina, 1997)
食物や配偶相手、テリトリーなどの資源を確保する際に見られる、相手に危害を加えるための攻撃に対し、防衛的攻撃は、その名からわかるように、動物が脅威にさらされたときに見られるものである(R.J. Blanchard & Blanchard, 1977)
選択によって二種類の系統が樹立された
防衛的攻撃性の低減を目指して選択されたもので、以後「家畜化系統」と呼ぶ
防衛的攻撃性の増大を目指して選択されたもので、以後「野生系統」と呼ぶ
実験の開始後の早い段階で両系統の人間に対する反応の仕方には目覚ましい差が見られるようになった
家畜化系統のドブネズミでは、人間に対する攻撃性の低減がすぐ見られるようになった
第71~72世代で、この系統のドブネズミはたやすく手で扱えるようになった(Plyusnina, Solov'eva, & Oskina, 2011; 第35世代での状態についてD.C. Blanchard et al., 1994を参照して比較せよ)
この世代の両系統の雄と、人為選択を行っていない野生のドブネズミの雄を用いて、攻撃性の査定が行われた
攻撃の対象には、実験用ドブネズミとして普及していたウィスター系統の個体を用いた
家畜化系統の個体はウィスターの個体に対する攻撃性も低かった
ただし、野生のドブネズミ個体と野生化系統の個体では、ウィスター系統の個体に対する攻撃性について、差はそれほど大きくはなかった(Plyusnina, Solov'eva, & Oskina, 2011)
キツネ実験で特筆すべき事の一つに、従順性を目的に行った人為選択によって引き起こされた行動面と身体面での変化の相関関係が挙げられる
ドブネズミの家畜化実験でも同様の相関した変化が観察された
人為選択を受けたドブネズミに見られた、相関関係のある行動面での変化のなかには、実験用ドブネズミの家畜化で起こったことをそっくり再現するものもあった
従順性を対象として選択されたドブネズミでは、野生系統の個体よりも、新奇な環境下で見られる不安の度合いが低かった
家畜化系統のドブネズミは、野生系統に比べて探索心が旺盛で、空間学習課題で高い成績をおさめた(Oskina, Plyusnina, & Sysoletina, 2000; Plyusnina & Oskina, 1997)
家畜化系統のドブネズミにはまた、家畜化に起因する性的発達の典型的な変化が見られた
野生系統よりも早い性成熟と、限られていた繁殖期間が年中になった(Shishkina, Borodin, & Naumenko, 1993)
キツネとドブネズミの両方で、相関関係のある反応の中で最も注目すべきものは、ホルモンに関するもの
ベリャーエフによれば、従順性を対象として行った選択により現れた、相関関係のある反応の多くは、ホルモンの変化、特にHPA系(ストレス反応を調節する系)に関わるものが引き起こしているから
実際、このストレス関連ホルモンのレベルは、キツネの場合と同様、従順性を対象として選択したドブネズミでも低減している(Pylusnina & Oskina, 1997; Oskina et al., 2010; Albert et al., 2008; Albert et al., 2009)
視床下部-下垂体-副腎系(HPA系)のすべての段階のホルモンレベル、および、ホルモンレベルを安定化させるフィードバックメカニズムが影響を受けている
さらに、家畜化系統のドブネズミでは、ストレスホルモンであるコルチゾルを放出する副腎皮質が、野生系統のドブネズミよりも実際に小さくなっている(Albert et al., 2008の研究より。これはノヴォシビルスクで行われたものとは完全に独立した研究である。)
相関して現れる多数の行動面での変化が、攻撃性低減を目指す選択によって引き起こされたこのホルモンの変化と関連しているのは明らか
探索行動の増加はおそらくストレス反応の低減を反映したものだろう
学習能力が高まっているのも、単に不安が低減したことによって学習課題に集中できるようになったからもしれない
様々な学習課題において、不安あるいは「緊張して」いると、リラックスしている場合よりも成績が悪くなることはかなり以前から知られている
上位のストレスホルモンである副腎皮質刺激ホルモン放出因子が過剰発現する遺伝子組換えマウスは、学習能力が劣っている (Heinrichs et al., 1996)
主題と変奏
家畜化された齧歯類には、他の哺乳類でも家畜化に際して見られる共通点が多く見られるが、興味深い相違点もある
齧歯類の三種(モルモット、ハツカネズミ、ドブネズミ)については、どれも家畜化の初期段階から大きくなっている
ほとんどの家畜化された哺乳類は、フタコブラクダを重要な例外として、少なくとも初期段階では野生の祖先よりも体が小さくなる(イヌ、ウマ、ブタでは、家畜化過程の後半で、人為選択により野生の祖先よりも大型の品種が作出されている)
齧歯類と非齧歯類の間に見られるこの違いは、体のサイズが進化的にはきわめて変化しやすいものであることを示唆する
昔の人間は大型の家畜動物に対してサイズを小さくして扱いやすくしたいと思うのが一般的
モルモットのような小さな家畜に対しては、サイズを大きくしたほうが肉の生産には都合がよかった
とはいうものの、家畜ハツカネズミや家畜ドブネズミでサイズが大きくなった原因ははっきりしていない
モルモット、ハツカネズミ、ドブネズミには、いずれも発生・発達の終了が早まることによる性成熟の加速(プロジェネシス)の徴候が見られる
これは家畜哺乳類に特有の特徴
一方でネオテニーが見られるという報告はない(おそらくモルモットをつぶさに調べればネオテニーが起こっているかどうかが判明するだろう)
ネオテニーが起こらないという点で、齧歯類は他の家畜哺乳類とは異なっている
家畜齧歯類と他の家畜哺乳類の共通点は、相違点よりもずっと多い
毛色については、ハツカネズミやドブネズミを含め、野生の齧歯類にはかなりの多様性が見られる(Hoekstra, 2006)
しかし、家畜齧歯類にはそれ以上の毛色変異が見られ、中には自然界では決して見られないものもある
さらに家畜化の色である白色は、他の家畜哺乳類全般と同様に家畜齧歯類でもよく見られる
家畜化された齧歯類と他の哺乳類に見られる行動面での収斂進化も、同様に明確
家畜化の不可欠条件は従順性
この齧歯類三種はいずれも同種の他個体に対する攻撃性も低減している
こういった行動面での変化は、家畜キツネの場合と同様に、モルモットやドブネズミでもストレス反応の低減と関係している
ドブネズミ、キツネ、ラクダなど、系統的には遠く隔たった哺乳類が、家畜化により収斂進化して似たような表現型を示すようになるのは実に驚くべきこと
哺乳類全体に共通する相同性を反映している
たとえば、ストレス反応は高度に保存されている
また、恐怖や攻撃などの情動を生み出すもとになる脳の構造やニューロンのネットワークも、社会的な関わりを持つ必要性があるという点も哺乳類全体に共通している(Panksepp, 1998)
人間もまた、こうした情動に関わる脳の構造やニューロンのネットワークを他の哺乳類と共有している
次の章で見るように、人間は家畜動物と共通の情動的特徴を持っている
→第13章 人間──I 進化